2019.10.11 現在のスーツ業界について思うこと
本当の意味で“仕立てる”とは
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私は縫製メーカーに約10年間勤めた後、2004年からジェントリーをスタートしました。創業当時は、オーダースーツを扱うお店が今より少なかったように思います。しかし、現在では個店からセレクトショップまで、非常に多くのお店がオーダースーツを扱うようになりました。同じ業界に身を置く者として、業界全体が盛り上がるのは非常に喜ばしいことなのですが、少し危惧を抱いているところもあり、今回はそのお話をさせていただければと思います。

私が気になっていることは、“仕立て屋”や“テーラー”“フルオーダー”という言葉。自身で裁断、縫製の技術(ハリやハサミも持ったことない)もないのに、堂々とそういった名前を使用しているお店が多いのではないかということです。現在増えているオーダースーツのお店の多くは、縫製工場や生地メーカーなどと繋がりがあり、そこに依頼をすることでオーダースーツを作っています。

しかし、もともとスーツを仕立てるということは、生地の裁断や縫製、型紙を作る職人さんたちのお仕事。それを自身もしくは、自店で手がけるお店をテーラーや仕立て屋と呼んできました。今はそのような技術を持たなくても、“仕立て屋”や“テーラー”という看板を掲げて商売する人が増えています。例えるなら、料理は外注しているのに料亭や割烹と名乗るようなもの。そんなお店は料亭と呼べるのでしょうか。テーラーや仕立て屋などの定義として、以下のように私は考えています。

 

■フルオーダースーツ

工場の流れ作業で縫製されたスーツではなく、一人の職人が全ての工程を仕上げるオーダースーツのこと

 

■テーラー、仕立て屋

裁断から仮縫いまでの作業を自身、または自店でやるお店のこと

 

■オーダースーツショップ

工場に依頼し、流れ作業のなかでスーツを仕立てるお店

 

このような言わば常識を知っている身からすると、上記のような定義に当てはまらない“テーラー”や“仕立て屋”と名乗るお店を見かける度に「何も知らないんだなぁ」と、つい苦笑いをしてしまいます。恐らくそのようなお店で仕立てられたお客様も、言葉の意味が分からず、フルオーダーをしたスーツだと誰かに伝える可能性もあります。結果的にそのお客様が恥ずかしい思いをしてしまうことになります。

ただ、単純に技術を持たない店がダメだと言いたい訳ではありません。技術を持たないお店が“仕立て屋”や“テーラー”と名乗ることがおかしく、またそれを知らない方も多いのでしょう。

本来は周囲が指摘しないといけないと私は思うのです。つまり、それを良しとしてしまう状況に危機感を覚えているのです。売上至上主義になってしまっていないでしょうか。このような状況が続けば、本物のテーラーが廃れてしまわないでしょうか。技術に誇りを持ち継承していくのが、日本のモノづくりの素晴らしさだと私は思います。

だからせめて、技術を持った本物のテーラーにしっかりと注目してほしいのです。技術や経験を積んだテーラーが手掛けるスーツは、着心地やルックス、耐久性が驚くほど違います。そして、お客様に本当に似合うスーツを提案してくれるはずです。

イタリアでは仕立て屋や職人はサルトやサルトリアと呼ばれ、本当に尊敬されています。日本でも同じように、本当の仕立て屋やテーラーが憧れを抱かれるような存在になればと願っています。